エゾシカ情報




<<阿寒エゾシカ レポート>> 97年1月19日発行


<65kgから42kgへ>

阿寒湖周辺は道内でも有数のエゾシカ生息地帯です。
特に冬から春先にかけての越冬地として周辺からシカが集まり、釧路から阿寒へ向かう
通称まりも国道周辺では法面などにたくさんのシカが確認できます。
冒頭の数字は、その阿寒湖周辺のシカの近年の体重計測調査によって明らかになったメ
スのエゾシカ成獣の平均体重の変化です。

91年、エゾシカの生息数がピークに達していた頃の体重は65kg。それに対して昨年96年
の場合は42kg。わずか5年の間に実に23kgも減少しています。
単純に人に置き換えるわけにはいきませんが自分の事として考えると病的なダイエット
と言わざるをえません。

これほどまでに体重の減った阿寒湖周辺のエゾシカに何がおきているのでしょうか?


<エゾシカの生息数は増加しているのか?>

近年、北海道のエゾシカは増えたと言われています。
確かに阿寒を初めとする道東ではエゾシカを見る事などはしごく当たり前、生息地では
汽車や車の窓からでもいくらでもその姿を見る事が出来ます。

それにあわせてシカによる農業被害も深刻になっていると言われています。
北海道ではエゾシカ対策が大きく取り上げられ、捕獲か保護かで揺れ、町全体を囲わん
ばかりの大規模な柵で農地をシカから守る対策も現実となろうとしています。

しかし、そのシカが生息数調査の結果、ここ数年すでに減少傾向にある事が判かってい
ます。(以下参照)

/・生息数の把握
/  エゾシカに限らず野生動物の生息数を正確に把握する事は難しいが、
/  毎年同じ場所で生息数を確認する定点観測のような手法によって
/  生息密度を把握する事で全体数を推定する事は出来る。
/
/  阿寒湖の国道脇 90年初め頃3月から4月 1000頭
/          96年3月から4月    200頭
/
/  美幌峠牧場   92年秋 250頭
/          96年秋 200頭
/   ライトセンサス(夜間スポットライトによって光るシカの目を数える)
/   による定点観測
/
/・春の子ジカの生存率(メス成獣100頭あたりの子ジカの頭数:約40が増減の境)
/   1988年   60   この頃ピーク
/   1990年以降 40〜50 増加の鈍り
/   1996年   20   大幅な減少
/
/(96年の冬は積雪期間が平年より長く、阿寒では多くのシカが死んでいる)

いずれのデータによっても3、4年前をピークにして生息数は減少傾向にあると言えます
有害鳥獣駆除の拡大やメスシカ狩猟の影響も考えられますが、問題はそれだけでは無い
ようです。


<林縁に生き、森に生きる>

エゾシカが多く生息する環境は、広い草原でもなく深い森の中でもなく、その中間、林
縁と言われる環境です。
シカの祖先マメジカは森の中で木の葉を主食としていました。そしてやがて広い草原へ
と進出するシカが出てイネ科の植物を主食とするようになりました。
エゾシカは、その中間に位置づけられます。広葉樹の葉も食べればイネ科の草本も食べ
ます。そのことからも木もあれば草原もある林のふち「林縁」が彼らのもっとも適した
生息環境といえます。

近年、森林は伐採され牧草地や畑へと変わり、「林縁」は増えました。
人は結果的にシカに適した環境作りに精を出していた様なものです。
エゾシカのメスは、満1歳から性成熟し、以後年1回1頭を生みます。
生息環境がよければその繁殖能力は高く、林縁の増加は、1980年ころから最近までの指
数関数的なエゾシカの増加に少なからず影響していると考えられています。

一方、林縁は増えましたが、北海道の天然林(針広混交林)は減少しました。
エゾシカは、初夏から秋にかけて林縁に生息しますが、越冬地としてはトドマツやアカ
エゾマツ等の大きな針葉樹の「屋根」と餌となる広葉樹、ササが茂る雪の少ない斜面、
適当な開水面(湖・川)等が必要となります。

道東では、こうした条件を備えた阿寒湖周辺や屈斜路湖周辺等の森で厳しい冬をやり過
ごします。
その森の減少とシカの増加は越冬地の環境を悪化させ、行き場を失ったシカは、もっと
雪の少ない釧路の草原(牧草地)へ逃れようとしますが、そこはもう人間の生活圏でシ
カは有害鳥獣として扱われます。
阿寒の越冬地は好まれて生息しているとも言えますが、他に行き場がなく留まっている
と言った方がよいのかもしれません。


<越冬地の限界が・・・>

昨年春、北海道の雪解けは春先の大雪等で遅れ、多くのシカが死にました。例年、体力
の無い子ジカがこの時期死にますが、この時はメス成獣の死亡が多かった事が特徴とし
てあげられます。
死んだシカの骨中の脂肪率を計測すると通常と比較してほとんど脂肪が無い状態でシカ
が体力を消耗しきっている事がうかがえます。
林縁で増えたシカが、冬の森の中で行き場を無くし、そのダメージは、シカを自身の体
内から蝕んでるのではないでしょうか?
シカの体重が減っていることは、それを物語っているようです。

かつて1878年と1902年の冬、平年は雪の少ない十勝や釧路地方にまで及ぶ大雪のためエ
ゾシカが激減しました。
それまで毎年10万頭におよぶシカを捕獲して缶詰用肉などに利用していたと言いますか
ら、かなりの数が生息していたと思われます。それが絶滅が心配されるまでに生息数を
いっきに減らしました。

生息数の増大に自然のインパクト、それに人の驚異(環境破壊・狩猟等)が加わると予
想のつかない結果が起き、その回復には長い年月がかかります。

現在、(人間にとっては)増えすぎたシカの捕獲についての議論が続いています。
シカの適正な数とは? 仮に適正数が判ったとしてもその数にコントロールができるの
か? 一歩間違えば100年前と同じ事にもなりかねません。

今年、阿寒のシカはどんな春を迎えるのでしょうか?
今後も見守り報告してきたいと思います。




報告:The sights of Shiretoko 浅沼孝夫

取材協力:美幌博物館 宇野裕之氏
参考文献:美幌博物館 宇野裕之(1990)第3回博物館特別展エゾシカ



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